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カッコウの官能小説劇場

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□ 騎士姫の復讐 □

第五章 再戦

 崩れかけた屋敷の前庭に馬蹄の音が高らかに響き、手綱で制止された馬がいななく。
 青く透ける冥界の馬に跨った騎士姫アンネロッテである。美貌は変わらず妖精のように完璧だが、思い詰めたような表情は硬く、どこか危うい美しさを醸し出していた。

 一月前、乙女として取り返しのつかない敗北を喫した場所に、アンネロッテは戻ってきた。
 この一月間ずっと噛みしめた続けた屈辱と悔恨、そして恐怖に、心臓が縮まるように痛む。
 しかし、この心の痛みを止めるべく、アンネロッテは舞い戻ってきたのだ、深く息を吸いこむと、よく透る声を響き渡らせた。
「出てこい、ベルトラン・ボレック! アンネロッテが復讐を果たしに来たぞ!」

 しばしの沈黙の後、男が朽ちた扉の奥から、ゆっくりと現れた。
 鎧を着て両手に剣を持っているが、一月前に比べて顔が不健康そうにこけ、その歩みには以前ほど力強さがない。
 油断のない目つきと、ふてぶてしい表情だけが変わらなかった。
 自分を犯し、恥辱のどん底に突き落とした仇を前にして、アンネロッテは恐怖で息が止まりそうになる。しかし、怒りを湧き立たせ心を支えると、唇を噛みしめて睨み付ける。

「くくく、やっぱり来たな。あのまま、泣き寝入りはしないだろうと思っていたが、待ち侘びたぜ」
「くっ、貴様だけは、絶対に許すことはできん! なんとしてでも今日貴様を討ち、この身の恥辱をすすいでやる!」
「そんな事を言いながら、仲間も引き連れず、一人で正面から乗り込んできたのか。」
 男は小馬鹿にしたように、唇を歪める。
「貴様を一騎打ちで討ち果たす、さもなくば、騎士としての誇りは取り戻せない」
「どうかな、実は犯される快楽が忘れず、また俺にやられに来たんじゃないのか。ふふん、あの時女にしてやってから、何度くらい自分を慰めたのかな?」
「や、やめろ!」
 アンネロッテは真っ赤になって怒鳴る。
 確かに、幾夜か、忌まわしくも甘やかな自慰行為に手を染めてしまうことがあった。その秘密を言い当てられ、羞恥でパニックになる。
 アンネロッテは、怨敵にたいする恨みと覚悟を思い出し、深呼吸してなんとか気持ちを落ち着ける。
「……この間は、貴様のことを知らず、油断して後れを取った、悪鬼ベルトラン。今日は私の全力をもって貴様を倒す」



 一月前、素っ裸で逃げ出したアンネロッテは、なんとか池の畔に転がる武装を拾い集めると、あられのない姿のまま、なんとかボレック村から離れた街の隠れ家に転がり込んだ。
 そこで一人、我が身に起きた恥辱の悪夢を、涙を流して嘆き悲しみながら、数日間寝込んで過ごした。
 時が経つにつれ、心の傷はある部分は癒えても、決して癒えない部分があった。
 男達にされたこと、自分の女体に起こったこと、それを見たものの反応を一つ一つ蘇らせては、恥辱がさらに心に深く刺さっていく。
 誰かの優し慰めが欲しかったが、仲間たちに我が身に起こったことを知られるのは耐え難かった。
 一人で長い堂々巡りの自問自答を繰り返し、アンネロッテは一つの結論に達さざるを得なかった。
 あの邪悪な男と再び闘い、勝利しなければならない。
 そうしない限り、自分は男達に犯される無力な小娘のままで、騎士としての誇りを取り戻すことができない。
 女王を打倒するという大望のために活動し続けることもできない。それは、騎士姫アンネロッテは死んだも同じということだ。

 そう悟ってからも、女として辱しめられた記憶は恐怖となってアンネロッテを縛った。
 あの戦いでは自分の力の全てを出し切ったわけではなかった、アンブロシウスに乗って戦えば充分に勝てる可能性がある。そう頭では考えても、再び負けることを考えると、身がすくむ。
 女王クローデット挑む時にすら感じなかった、アンネロッテが初めて覚える恐怖だった。

 初めは街を歩く町人の男にすら恐怖を感じる始末だった。それを強い覚悟でもって抑え込み、少しずつ慣らして普通に街を歩ける程度には回復した。
 それでも、傭兵たちの集まる、ガラの悪い酒場に入る時には決意が必要だった。酒場に入った途端、場違いな美少女に注目が集まる。その下品な視線に隠した肌を撫でられる様な錯覚が襲い、怖気が立つ。
 なんとか平静を保って足を踏ん張っていると、当然のように下品な言葉で絡まれた。
 気がつくと、店の中の男達を全員叩きのめしていた。
 どうやら、体に染みこんだ体術だけで、やったらしい。当然と言えば当然の結果だが、アンネロッテはここでようやく、心を縛っていた緊張が解け安堵した。
 自分の強さが確認でき、ようやく自信の片鱗が戻ってくる。

「うう……、もう勘弁してくれ。な、何が望みなんだ……」
 目の前の半死半生の男が、うめくように言った。
「……ソードブレイカーを使う傭兵を知っているか?」
 アンネロッテは、ふと、それまで考えてもいなかった問いを発してみた。
「ソードブレイカー? そんなの、ベルトランでもなきゃ、滅多に使わねえよ」
「ベルトラン!? あいつを知っているのか?」
「そ、そりゃあ、傭兵やってて、知らないわきゃないぜ」

 アンネロッテは驚き、話を続けさせた。
 その結果知ったのは、“悪鬼”ベルトランは伝説的なほどに悪名高い傭兵だという事実だった。
 実戦で使いこなすには難しいはずのソードブレイカーの達人で、若い頃から数多の貴族を生け捕りにしては身代金を荒稼ぎしていたという。どんな武勇を誇る騎士ですら、彼と戦って勝利した者はいなかった。
 大胆にして狡猾な戦いぶりで目覚ましい武功をあげた彼は、いつしか数百人規模の傭兵隊を率いるようになった。
 しかしその傭兵隊は冷酷にして非道。時には女子供を人質に取り、時には雇い主を裏切ってその生命財産を根こそぎ略奪した。
 名誉も仁義も打ち捨てて、ただ我欲のためだけに暴力を吹き荒らすそのやり方は、他の傭兵達から畏敬と反発の対象だったという。
 そのためか、騎士に取り立てられてもおかしくないほどの武功を立てながら、むしろ雇い主の貴族達からは疎まれ、怖れられるようになり戦争を求めて各地を転々としていた。
 そのような不安定な状況で、彼の傭兵隊には裏切りと粛清の内紛が幾度も起こり、数年前についに瓦解する。伝説を残したまま、悪鬼ベルトランの行方は杳として知れなかった。
 腹心に後ろから刺されて死んだという説、莫大な財産をもって隠遁したのだという説、怨みを買った女に致死性の病気をうつされたという説、様々な噂が流布しているが、確かなことは誰も知らなかった。

 アンネロッテは、話を聞きながら、動揺を押し隠すのに精一杯だった。間違いなくこの伝説の傭兵こそが先日自分を辱め尽くした代官であることは間違いない。
 活動地域がクロイツ領からかなり離れていたし、所詮傭兵は戦場では下に見られて華々しく語られることもない。それでも、無敵の武勇を誇った戦士のことを自分は全く知らなかった。
 アンネロッテは改めて、この世界の広さと、自らの無知を噛みしめざるを得ない。
 油断しきって戦いを挑み、無惨にも返り討ちにあったのは、全て自分の未熟さゆえの結果だったのだ。


 そして、今、アンネロッテは再びベルトランと相まみえていた。
 かつての恥辱をすすいで、誇りを取り戻すために、自らに厳しい修行を課して武技を磨いた。
 あの時とは違い、初めからアンブロシウスに跨って戦う。一切の油断を無くして、全力でもって難敵と再戦するつもりだった。

 しかし、アンネロッテはベルトランの様子を見て、どうしても気になることがあった。
「……顔色が悪いな、心臓のせいか?」
「くくっ、恐れ入ったね、そんな事まで調べてきたのか」

 アンネロッテは逃げ出した時、恐怖に怯えながらも、せめて騎士の正装たる鎧と剣だけでも拾っておこうと、処女を散らされた池の畔に立ち寄ったのだ。
 脱がされた鎧の側に、空の小瓶が転がっているのを見つけた。代官が飲んでいた緑色の液体が僅かに残る小瓶に、何か引っかかるものを感じたアンネロッテは、とっさにそれも掴んだ。
 叛乱の仲間であるリトルエルフの錬金術師に手紙でその分析を頼むと、帰ってきた返事は意外なものだった。
 それは、弱った心臓を動かすための薬だった。珍しい薬草を原料に錬金術で作られたもので、かなり高価なものらしい。その薬草は一年ほど前に買い占められて、市場に出回らなくなったことがあったと、返事には書いてあった。

「ひひ、そんなに心配そうな顔をするな。このくそ忌々しい薬のおかげで、まだ心臓は止まらん。剣も扱えるし、ちんぽも立つ」
「下衆め……心配などするものか。お前の心臓はこの私が止めてやる」
「まさしく刺すか刺されるかだな、くはははは。同じ事をしたがっている奴は、山ほどいるが、最後の相手がお前みたいな上玉で嬉しいねえ。神様の粋な計らいって奴かな」
「ほざくなっ」

 アンネロッテが馬上槍と盾を構えると、しなやかな女体に闘気がみなぎる。
 まぶしい程白い太ももがぶるっと躍動して腹を蹴ると、アンブロシウスの巨体が弾丸のように突進した。
 槍の鋭い切っ先を、ベルトランは俊敏な動きで横っ飛びにかわす。その両手には、いつの間にか大小二つの剣が握られていた。
 アンネロッテはそのままの勢いで距離を取ると、馬体を最小半径で回転させ、ベルトランに槍の切っ先を差し向けると、再び突進する。
 正面から迎え撃つベルトランは、穂先の届くぎりぎりで瞬時に動く。馬体を半身に避けつつ、左手のソードブレイカーで槍を受け流し、右手の長剣を低く横に薙ぐ。
「なにっ……」
 ベルトランが思わず驚愕の声を上げる。予想された肉と骨を断つ衝撃はなく。半霊体の馬はそのまま駆けていってしまう。
 それは、絶望的なまでの不利を、悟ったがゆえの驚愕だった。
 騎兵と歩兵では、上方にあり機動力に勝る騎兵の方が有利なのは当然だ。それでも、無防備で大きい馬体が常に晒されているという弱点がある。このアンブロシウスに限ってはその弱点とは無縁のようだった。
 しかも、馬上槍と長剣ではリーチに差が大きい。それは常にこちらの攻撃の届かない範囲からアンネロッテに攻撃されると言うことだった。
 アンブロシウスを反転させたアンネロッテは、油断した様子もなく、厳しい表情のまま、三度目の突撃を行った。

 アンネロッテは同様の突進攻撃を繰り返した。
 毎回同じ突進に見えて、槍の軌道やアンブロシウスの移動を巧妙に変えた、まさしく騎士の華と言うべき華麗な突撃であった。
 ベルトランの方もその攻撃を全て防ぎ避けながら、必死の反撃をする。
 しかし、騎士を捉えた剣撃は盾に弾き返され、背を見せる瞬間を狙った攻撃はアンブロシウスの後ろ蹴りに防がれる。

「あぅっ」
 幾度目かの突進で、ついにベルトランの剣がアンネロッテを撃つ。
 複雑な軌道をで盾をかいくぐった剣先が、下からアンネロッテの胸当てを掠める。
 甲高い金属音と共に胴鎧から胸当てだけが外れ飛んだ。
 ぶるるんと柔らかさと弾力を示して揺れ動き、美巨乳の完璧な形が陽光に下に晒される。
「くっ」
 思わずアンネロッテは、その先端の可憐な紅突起を手で隠す。

「はぁ、はぁ、ふぅぅ、相変わらずいいおっぱいだな。感触が蘇ってきてたまらねえな」
 ベルトランは既に息が上がり、距離を取ったアンネロッテに追撃することもしない。
「黙れっ、下衆め……」

「……騎士姫様よ、こいつはちっと騎士道にもとる戦いぶりなんじゃないのかい。遠くから馬で突進するばかりで、こっちの剣の範囲には全然入らねえ」
「貴様の剣の腕前に敬意を払っての戦法だ、騎士の常道でもある」
「うひひ、俺とがっぷり四つに組むのが怖いのかい。この間は結構優しくしてやったじゃねえか。もう一度可愛らしいよがり声を上げさせてやるぜ」

「くっ、言うなぁっ!」
 アンネロッテの顔が紅く歪む。手を放して武器を構えるとまぶしく白い双丘が、ぷるんと弾む。それを無視して、アンネロッテはまた突進をかける。
 ベルトランは飛びずさるように避けた。そこでアンブロシウスはいななきながら状態を上げて、巨体を止める。
「てやぁぁぁぁっ!」
 アンネロッテの槍が目にも止まらぬ速さで前後に動いて、がむしゃらな連撃を加える。
 「流星突き」アンネロッテの編み出した必殺技である。腕の動きにつられて解放された乳房も踊るように激しく上下した。
「うぁっ」
 なんとか剣の平で防いだベルトランだが、後ろに吹っ飛ばされる。剣は手から離れて音を立てて転がった。

 馬上から槍の切っ先を憎き男ののど元に突きつける。
「ま、待て……、俺の負けだ、降参する」
 アンネロッテは、馬上から地面に倒れたベルトランを見下ろした。
 ぶるっ、と体が震えると、勝利を実感して、なんとも言えない解放感が湧き上がってきた。アンネロッテは、自分が心の奥底でいかにこの男を恐怖していたのかを実感する。しかし、それももう終わったのだ。

「なあ、俺を殺さないだろう……。俺はお前に勝ったが、お前を殺さなかったじゃないか」
「よくも、そんな事が言えるっ……、貴様が私にしたことを忘れたとはいわさんぞ……」
「悪かったな。でも、お前みたいな美しい女を捕まえて、好きにできるとなりゃあ、色々してみたくなるってのは、こりゃあ男の性ってもんだ。何もしないって方がおかしいぜ」
「お前なんかに、辱められ、いっそ殺された方がましな苦しみを味わった、それを思い知らせてやる……」
「お前は俺に殺されなかったからこそ、こうやって俺を打ち負かすこともできた。女王にもまた挑める」
「くっ……」
「なあ、俺はもうほっといてもくたばっちまう。わざわざ騎士の掟に反してまで、降参した俺を殺さなくてもいいんじゃないのか」

 アンネロッテは唇を噛んでベルトランを睨み付けた。男の瞳の色はは深く内心を悟らせない。
 この一ヶ月の間、毎日この男を殺すことのみを強く願い、そのためだけに行動してきた。
 しかし命乞いをする男を前にして、憎しみは以前ほど強烈な黒さを放っていない。それは、男を打ち負かして恐怖を振り払ったからなのかもしれない。
「……お前は危険な男だ。腕を使えなくしてやる。後は勝手に死ぬがいい」
 村から追放するべきなのかも知れないが、村長達にされたことを思うとそんな気にもなれなかった。
 暴力という手段を無くせば、どうせ村人から報復され、ここには居られまい。暴力のみを後ろ盾にしていたこの男にとって、もしかしたら死よりも辛い罰かもしれない。
 アンネロッテはそう思ったが、男はあっさりとそれを受け入れた。
「ああ、いいぜ。命が助かるなら安いもんだ……」
 そう言って握った手を前に差し出す、アンネロッテはやや拍子抜けしながら、腕の腱を断とうと槍を引く。

 瞬間、男の手首が閃いた。
「あっ!」
 鍛えられた反射神経が手で顔を防ぐ。ぱんっ、と何かが手に当たり破裂する。刺激物の臭いが鼻を突いて、煙が立った。
 それは、目潰し玉だった。目に直撃していたらしばらくは目が見えなかっただろう。
 男は転がるように後ろに逃げ出し、建物に向かっていた。
「けほっ、ごほっ、待て、卑怯者! 許さないっ」
 多少涙がにじむが、目は見える、アンネロッテはアンブロシウスの腹を蹴った。もはや容赦は無用で、男の背中に馬上槍を突き立てる覚悟である。
 力強い疾駆で間合いは数瞬で詰められた。
 男が振り向き、切っ先がその胸に届く瞬間、アンネロッテは馬上から後ろへ放り出された。まるで体が見えない何かにぶつかったようだった。

「がはっ」
 背中から地面に落ちたアンネロッテは、肺から空気が逆流するような衝撃を味わう。飛び起きたいのだが、痛みと衝撃で体が言うことを聞かない。
 ベルトランは滑るように動くと、アンネロッテに馬乗りになって、ソードブレイカーの切っ先をのど元に突きつける。
「形勢逆転だな。くく、あそこに糸を張っておいたのさ、虫の腸を伸ばした細くて頑丈な糸をな。地の利はこちらにあったって訳だ」
「くっ、はぅっ……ひ、卑怯者ぉ」
 アンネロッテは振り絞るようにそれだけを言うのが精一杯で、再び敗北を喫した絶望と痛みに目の前が暗くなっていった。

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Date:2013/11/27
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