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カッコウの官能小説劇場

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□ ウォッチタワー □

第二章 第三節

 レイナ、トモエ、ノワ、裸の美闘士三人は大きな両開きの扉の前に立っていた。
(皆さん、テナルドです。苦労しましたが、なんとかこちらの準備は整いました。塔の主は扉の向こうで待ち構えています)
(……やっと、辿り着いたわね。今まではあいつにいいようにされてきたけれど、今度はわたし達が思い知らせてやるんだから)
(彼は、あなた達に近づくために、通信水晶に意識の大部分を振り分けています。それをなんとか破壊して下さい)
(通信水晶って、さっき見たのと同じ奴ね。多分簡単じゃないんでしょうけど、なんとか油断を誘ってやってみるわ。あいつはわたし達がそれを狙っていることは知らないのよね)
(はい、彼はあなた達に魔物をけしかける気でいます。勝つか負けるか分からない程度の強さの魔物と戦うのが見たいのです。あなた達が自分に向かってくる余裕はないと思っています)
(もし、こっちの意図が悟られたら……?)
(彼に警戒されてしまったら、残念ながらこの計画は失敗です)
(最初の一撃で決めなくちゃいけないってことね……)
(はい、難しい仕事でしょうが、あなた達ならば必ず出来ると信じています。
 もし失敗しても、彼はあなた達を殺そうとしたりはしないでしょう)
(それで、安心しろって言われてもね……)
 命を奪われないのは、飽きるまで彼のおもちゃにするためだろう。それが死ぬよりかはましだとは言い切れなかった。
 それでも、美闘士達の心が恐れで曇ることはなかった。そんなものは戦いに勝利するのに何の役にも立たない。彼女たちは、もっと困難な状況での戦いをくぐり抜けたこともある。クイーンズブレイドに参加する以上、どんな絶望的な戦いでも諦めない覚悟があった。
 うら若き乙女の体を守る防具が何もなくとも、手に武器があり、心に闘志がある以上、戦士としての本分を発揮できるのだ。

「それじゃあ、みんな、行くわよ!」
 レイナは武器を構えたまま、扉を押し開いた。

 扉の内側は、三人が予想もしていなかった場所だった。
 空が青く晴れ渡り、太陽がさんさんと輝いている。石の壁で丸く囲まれた広場は綺麗に整地されており、壁の上に階段状にベンチが並べられ満杯の人が座っている。
 ここは、小さいながらも立派な円形闘技場だった。
 入ってきた三人を盛大な歓声が出迎える。
 しかも中空にはクイーンズブレイド中継のような映像が投影されており、三人の若々しい裸体が大きく写し出されていた。
 驚きの余り呆然としてしまった三人だが、それを見て思わず悲鳴を上げて体を隠す。
 クイーンズブレイドの最中に、鎧が壊され乳房やお尻が見えてしまうことは、たまにある。しかし戦いの始まる前から素っ裸で入場するなど、頭のおかしい痴女のような行為で、乙女の羞恥心には耐えられなかった。

「ようこそ、レイナ、トモエ、ノワ。
 皆さん、勇敢で美しい美闘士達に盛大な拍手を! 彼女達は自分の美しさを全く出し惜しみするつもりはないようだ」
 正面の主催者席に、豪華な赤茶色のローブを着た男が手を広げていた。フードを目深に被って顔はよく見えないが、その声は間違いなく塔の主のものだった。
 塔の主の挨拶で、観衆から拍手と共にどっと笑う声がおこり、さらに口笛や、三人の体を褒めそやす下品な野次までが聞こえる。

 三人は、大観衆の見ている前に裸で立つという恥辱に、目がくらみそのまま倒れてしまいそうだった。
 しかし、歯を食いしばって理性を働かす。この空も闘技場も観客も本物であるわけがない。さっきまで塔の中にいたのだ。全て塔の主の作った幻覚であることは明らかだった。

 そう分かってはいても、手を胸と股間からはなして武器を構え直すのは勇気が必要だった。
 観客達に不自然なところは一切無く、老若男女が混ざった本物の人々のようだった。男達は欲情の交じったぎらつく視線を向け、女達は好奇と品定めと侮蔑のこもった眼差しを向けてくる。

 レイナは一歩踏み出して、剣の切っ先を塔の主に向けて睨み付ける。
 豊かな乳房や尻、そして秘裂から少しだけ顔を出す花びらに人々の視線が集中するような気がするが、努めて無視した。
「ようやく、顔を出したわね。
 こ、こんな幻覚でわたし達を惑わそうとしても無駄よ!
 よくも、馬鹿みたいな仕掛けで散々わたし達を弄んでくれたわね。
 あなたのしたことはとても許せることじゃないけど、一応最後に言っておくわ。
 もし反省してシズカを返して、わたし達をここから解放するというなら、水に流して去ってあげてもいいわ。
 それが嫌だって言うなら、後でたっぷり後悔することになるわよ」
「くはははは、勇ましいな。それでこそ流浪の戦士レイナだ。
 そんな風に剣と乳首をこちらに向けてすごまれると、思わず言うことを聞いてしまいそうになる」
「くっ……」
 レイナは歯を食いしばって、胸を隠したくなるのに耐えた。
「しかし、物事には順番というものがある。そうだな、シズカを返して欲しいなら、返してやっても良いぞ」
 そう言うと、塔の主の後ろから、屈強な男二人にシズカが連れられてくる。いつもの忍び服をまとっているが、手を後ろに縛られ猿ぐつわをかまされている。
「シズカさん! 良かった……。すぐに助けてあげますからね……」
 トモエがようやく親友の無事な顔を見て感極まったように言う。
 そして、決意を込めて体から腕を離して太刀を八相に構える。彼女にとって大勢の好奇の目に自分の肉体を晒すのは、舌を噛んで死にたくなるくらい辛いことだった。
 「たまんねえおっぱいだなあ」とか「ヒノモトの女は肌が綺麗だねえ、撫で回してやりたいぜ」とか「案外下の毛が少ないのね、びらびらが見えちゃってるよ」などと言う声が彼女の耳に届く。それでもトモエは、シズカを助けるため、唇を噛んで耐えるのだった。

「ふふふ、返すと言ってもただ返すわけにはいかん。まずは、こいつと戦ってもらおうか。見事勝利したら、シズカを解放することを約束しよう」

 塔の主が言った瞬間、何もない中空から大きな物体が降ってきた。
 闘技場の中央に振動と共に落ちてきた円筒形のそれは、一度潰れるように縮んでから、伸び上がるようにして立ち上がる。円筒形の上には口のような穴が開いてあり、その周りから色とりどりの長短無数の触手が生えている。
 それは、巨大なイソギンチャクだった。青緑色の体はぬめぬめとてかり、不気味に蠢いている。
「そういえば先程お前は幻覚と言ったが、ここにあるものは全てわたしの創造物で、幻覚ではないぞ。人にはそれぞれ記憶と自我があるし、この魔物もとある異世界で見たもののコピーさ。お前達を打ち倒す力を持っているから、用心するが良い」

 突然、巨大イソギンチャクの触手の一本が鞭のようにしなり、平べったい先端がレイナめがけて襲いかかってきた。
 間合いの外と思っていたレイナは不意を突かれた。とっさに盾で受け止めたが、はじき飛ばされ尻餅をつく。
 足が開いて股間の秘裂が丸出しになっているのが、空中映像にも映されてしまう。観客からは下品な歓声が起こる。
「くっ!」
 恥辱と危険を感じて、レイナは跳ねるように立ち上がる。
「レイナ!」
 二撃目はノワの棒が弾いていた。

 否応もなく裸の美闘士達と巨大イソギンチャクの戦闘が始まった。

 触手が振り回され、襲いかかる。
 それは強力ではあるが、単純な攻撃だった。
 美闘士達は伏せ、跳び、体を回して、ぎりぎりのところでその攻撃を避けつつ間合いを詰める。
 乳房が踊り、尻は躍動する。一旦戦闘に入れば、美闘士達にもはや羞恥を感じる余裕はない。

 間合いを詰めると大振りの攻撃はないが、触手の数が増えた。
 複数の触手が同時に美闘士達を打ち、絡め取ろうとする。
 美闘士達は超人的な体捌きと剣技で柔肌を守る。
 触手の不規則な動きに対応しながらも美闘士達の動きは理にかなったもので、どこか踊りのような美しさを感じさせた。観客からは大歓声が湧き起こるが、戦いに集中する三人の耳には届いていなかった。
 なんとか本体に斬りつけようとするが、さすがの美闘士も容易には近づけず、一進一退の攻防が続いた。

「あうっ」
 閃光のような太刀捌きで触手を切り払っていたトモエだが、ついに下から振られた一本の触手が脇から胸へかけて体を打つ。
 ビシリと音を立てたその打撃が、形良い巨乳を揺らす。
 しかしトモエは、肌を打たれた痛みはあるものの、ダメージは大したものではないことに気がつく。これならば相当食らっても動けなくなるほどではない。
 そう考えたトモエは、状況を打開するためにも強引な手に打って出た。
「やっ、たあっ」
 剣を大きく斜めに振り、前方の触手を切り払う。その空いた空間を本体に向けて突撃した。
 数回、腕や尻に打撃を食らうが、その痛みは無視した。右足に触手が絡みついたが、その瞬間太刀で切り離す。
「ていりゃぁっ!」
 気合い一閃、本体に上段から垂直の斬撃を見舞う。
 鉄兜すら斬り割る必殺の技だった。
 しかし、予想に反して斬った感触は鈍く、巨大イソギンチャクは太刀をめり込ませてひしゃげたものの、ぶにょん、という感触と共に太刀が押し返された。
「くっ」
 柔らかそうな相手の想定外の強靱さに驚き、トモエは後ろに飛びずさって触手から逃れる。
 しかし、相手も無傷ではなかった。上端に大きな傷口ができ、苦しむように悶える。そして一旦縮んで伸び上がると、巨体を空中に跳ね上げて、後ろに下がった。

「トモエ! 平気?」
 レイナが駆け寄った。ノワは二人を触手の大振りから棒で守るように前に立つ。
「は、はい、大した傷はありません……、くふぅ」
 言葉とは裏腹に、トモエは自らの肉体の異変を感じていた。触手に打たれたところがうずき、その刺激が妙に甘いものに感じられる。

「実はこのイソギンチャク、女を辱めるために人工的に改造されたものでな。本来持っているのは捕食のための麻痺毒なのだが、それを女を発情させる成分に変えておる。捕まっても食われはせんから安心するといい」
 塔の主が壁の上から楽しそうに言う。
「なんですって……」
 見ると、トモエは激しい動きのせい以上に、顔は上気し息が荒くなっていた。そして、太ももに一筋垂れる液体は、明らかに汗以上の粘度がありそうだった。
 レイナは、トモエの右足に絡みついたままの、切り離された触手がぴくぴくと動いているのに気がついた。赤黒くて、先端は茸のように小さな傘がついている。それは下の階でくわえさせられたゲルキャンディ、つまり男性器にそっくりだった。
「くっ」
 レイナは剣でそれをトモエの足から取り除きながら、その意味を理解する。
「トモエ、少し休んでいて。後は私達二人でやるわ」
 レイナは心配そうに言う。トモエは既に触手を相当数斬って本体に痛撃をくわえている。
「いえ、わたくしはまだ戦えます。この程度の毒、なにほどのこともありません」
 トモエは荒い息を無理に整えて、潤んだ瞳に決意を込めて言う。
「そう……無理はしないでね」
「そうそう、無理は禁物だぞ。そのたっぷり漏れ出るおつゆで足が滑ったりしたら大変だからな」
 塔の主がそう言うと、もう隠せないほどに蜜が漏れ出ているトモエの股間が中空に大写しになる。
 たちまちわき上がる卑猥な野次に、トモエは肩を震わせてうつむくしかなかった。

 巨大イソギンチャクはダメージから立ち直ったようで、触手による攻撃を再開した。
 ノワは棒を風車のように回転させ、触手を容易に近づけないようにして身を守る。
 死角の方向から触手が迫るが、目の端にそれをとらえると、即座に打ち据えた。
 防御の無くなった前方から一斉に多数の触手が襲いかかってくる。
 瞬間ノワの体は地面に立った棒の上に片手で逆立ちしていた。触手達の攻撃は空を切る。
「きゃあっ」
 ところが、空中に一本の触手が振られてノワの片足に絡みつく。ノワは逆さまに宙づりになってしまう。
「ノワ!」
 レイナとトモエが救出に駆け出す。
「あつっ、やああん」
 ノワの白魚のような体が、触手に鞭打たれる。絡みついた触手が蛇のように這い回り、上空へ向けられた肉の合わせ目を舐めるように擦った。
「せやあぁぁっ」
 レイナが助走を付けて跳び上がり、ノワを宙づりにする触手を横薙ぎに斬る。
 突然の落下にもかかわらず、ノワはくるりと回転して受け身を取り、即座に棒を構えた。

「あ、ありがとう、ちょっと油断しちゃった」
 何事もなかったかのように、ノワは棒を回転させる。しかし、先程擦られた股間に異常があるようで、時々、体をびくっとさせては内股になる。
 そしてレイナも、ノワを助けるために突進した際、触手の一撃を両胸に食らっていた。
(お、おっぱいが揺れる度にじんじんしちゃう。触ってるわけでもないのに……)
 まだ戦いに支障が出るほどではない。しかし、これから毒が回るのか、あるいは何発も食らったら、どうなるか分からなかった。
「みんな、まず、この厄介な触手を斬っちゃいましょう。これさえ無ければただの木偶の坊よ」
 催淫毒にどれほど影響されるか未知数なため、できれば長期戦は避けたい。しかし、巨大イソギンチャクの強靱さを考えれば、ダメージ覚悟の短期戦は選べなかった。

 三人の美闘士はノワを真ん中に、左右にレイナとトモエが展開する形で敵と対峙した。
 範囲の広いノワの棒が左右も含めて触手からの防御に集中し、レイナとトモエは可能な限り触手を切り落とすことにしたのである。

 再び巨大イソギンチャクと美闘士達との、一進一退の戦いが続いた。
 トモエとノワには、催淫毒の影響がかなり回ってきた。美しい顔は上気して、時折苦しむように眉根を寄せる。荒い息の中に甘い喘ぎ声が交じり、乳首は膨らんで硬く尖っている。股間からは粗相をしたかのように、淫蜜が太ももまでも濡らしていた。
 しかしそのような変化に反して、その武技には僅かな影響しか見られず、相変わらず見事な達人技で魔物と渡り合っていた。
 裸の乙女達は、ともすれば流されそうになる内部からの甘い疼きを不屈の精神力で押さえつけ、肉体を華麗に動かしている。その姿は、真の強さと、それが今にも崩れそうな予感の両方を感じさせ、凄絶な艶と美しさを発していた。
 今や観客も声を上げずに、固唾をのんで戦いの行方を見守っていた。

 レイナは強敵との戦いに集中しながらも、この戦いに本当に勝利する唯一の方法を忘れてはいなかった。もし好機があれば、それを見逃さず即座に実行する覚悟を心の奥底に沈めておいた。
 巨大イソギンチャクが後ろに跳ねたことで、塔の主が観戦するすぐ前で戦っている。
 気取られぬよう塔の主を観察したところ、首の下に水晶玉をぶら下げているのが、ローブの合わせ目から垣間見えた。
 後はどうやって三メートルも上の壁にいる塔の主に一瞬で剣を叩き込むかだ。一度きりの攻撃は、絶対に失敗できない。
 
 巨大イソギンチャクの触手も、既に半分ほどが切り落とされていた。
 一方で美闘士達も何度か触手の毒を食らってしまった。時折足が震えるほどの情欲が体を駆け巡るのを必死で耐えしのいでいた。
 下から振り上げられる触手を、ノワは棒突きで押さえ込もうとするが、僅かにそれた。
 触手の茎がノワの股間を直撃して、秘裂の中までも食い込む。びちゃっという水音がなった。
「んあああああーーーーーーーっ」
 最も敏感な部分を強力に打たれ、ノワの抵抗もついに決壊した。
 股間から全身に広がるような快感の中、喘ぐような悲鳴を上げ、全身の筋肉から力が抜ける。
「ノワちゃん!」
 その場に倒れ込んだノワを這い寄る触手から守ろうと、トモエは左を向いて前に出る。しかしそれは右側面に死角を生んだ。触手が右のくるぶしに絡みつくと、思い切り右上に引っ張った。
「きゃあぁっ」
 バランスを失いトモエは横向きに倒れる。そして美しい曲線を描く右足だけが垂直に高く掲げられた。付け根の秘花が、欲情に赤くふくれてほころび、淫蜜で濡れ光っているのが観客の目にさらされた。
「いやあああぁぁ!」
 思わず羞恥の悲鳴を上げるトモエに、抵抗する暇は与えられなかった。細身の触手がやってくると、充血していきり立つ小さな肉芽を包み込んだ。それをつまむように、しごくように刺激する。
「はあああああんっ!」
 女の急所への攻撃に、今まで限界寸前まで耐えに耐えてきた快感が爆発してしまう。トモエの頭は真っ白になり、自分のあげた大声さえ聞こえていなかった。

 その時レイナは集中のあまり、時の流れが遅くなったように感じた。
 触手の多くはようやく手にした二つの獲物に向かっている。
 塔の主は壁の縁のすぐ側で身を乗り出すようにしてトモエの方を見ている。
 今こそ、待ちに待った唯一の好機だと戦士の本能が告げていた。
 レイナは触手を突っ切って、本体へ突進する。
 そして思い切り跳び上がり、巨大イソギンチャクの直上へにまで達した。
「てやあああぁぁっ」
 剣先を下に向けて、レイナはそのまま巨大イソギンチャクの上に落下する。その勢いもろとも体重をかけて、思い切り剣を突き立てた。
 巨大イソギンチャクはレイナの重さと攻撃に潰れるように沈む。しかし、魔物は息絶えはしなかった。
(きた!)
 魔物の柔らかく強靱な肉体の反動を突き立てた剣から感じ、レイナは自分の狙いがあたったのを知った。
 巨大イソギンチャクは、怒ったように縮んだ体を一気に伸ばす。
 その弾き飛ばすような動きとタイミングを合わせて、思いきり足を伸ばして跳び上がる、塔の主のいる方向へだ。

「せやあっ!」
 一瞬にして壁の上に達したレイナの剣先が塔の主を頭上から一閃する。
 ガキッという手応があった。フードが二つに割れる。
「テナルド!?」
 レイナが思わず口に出す。現れた顔は一階で見た少年と全く同じものだった。
「なぜ、その名を!?」
 言葉が終わる前にレイナの切り上げがひびの入った水晶球を打つ。
 それは音を立てて砕け散り、破片がきらめきながら空中に舞った。

 その瞬間に全てが消え去った。
 塔の主も、闘技場も、観客も、太陽さえも。
 そこは壁もなく、ただひたすら無限に続く空間だった。
 ただ上空には巨大な白い渦巻きがあり、時折七色に変化しながら輝いていた。
 床は闇のように黒く、継ぎ目も何もない滑らかな平面が続いている。
「ノワ! トモエ!」
 渦巻きからの光で二人を見ることができた。先程まで三メートル高い場所に跳び上がったはずだが、落ちてもいないのに同じ床にいた。
「や、やったのですか……」
 倒れていたトモエが、息を荒らげ、身を起こしながら言う。
 自分を捕えて、陵辱していた魔物は影も形もなかった。
「ええ、なんとかね。ノワ、大丈夫?」
「う、うん。えへへへへ、やったあ。さすがレイナだね!」
 ノワが満面の笑みを浮かべて言う。
「二人があいつの注意を惹きつけてくれたおかげよ」
「ふう、本当に酷い戦いでした。もう二度とこんな人とは戦いたくありませんわ……」
 誇りと、純潔を傷つけられた武者巫女が深く溜息をつくように言った。
「本当。こんな戦いなら、まだ沼地の魔女と一人で戦った方がましだったよ」
「シズカさんはどこでしょう。先程は居たのに……」
「それは……テナルドに聞いてみないと、それにここから出る方法も」
 恐るべき敵を倒して安心してしまったが、何も存在しない超自然的な空間に裸で放り出されている状況に不安が湧き起こる。

「テナルド! テナルド! 聞いてる? 返事して」
 虚空に向かって叫ぶが、返答はない。ふとレイナは塔の主の顔がテナルドと同じだったことを思い出し不安にかられる。彼を信じるしかない状況だったが、本当に信じられるのだろうか……。

 そのとき、虚空に笑い声が響く。
「ふっふっふっふっふっ、ふっははははははははははははは」
「あなたは……」
 三人はその狂気じみた哄笑を聞いて、ぞっとする。それは間違いなく、先程倒したはずの男の声だった。
「いやいや、驚いたよ。まさかこの塔の中で私が驚くことがあろうとはな!」
 三人の前に忽然と古代風の衣装の少年が二人現れる。双子でさえ微妙な違いがあるものなのに、二人は全く同じ顔、同じ格好をしていた。
「お前達の裏でまさかこいつが糸を引いていたとは、想像だにしなかったぞ。
 しかし、危ないところだった。まさかあんな仕掛けを用意していたとは。一瞬遅れたら成功したかもしれんな。さすがは私と言うことか」
「テナルド!」
「テナルド。懐かしい名だ。私がまだ人の肉体を持っていた頃の名だ。お前はそんな風に名乗ったのか」
 嘲笑を浮かべている一人とは対照的に、うなだれていたもう一人の少年がレイナ達に言う。
「すみません……。彼から管理権限を奪うことはできませんでした」
「そんな……」
 レイナ達は青ざめた。針の穴を通すようにして勝利を得たと思ったら、反故にされたのだ。
「当たり前だ! お前は私の弱さだ。邪魔だから切り離したのだ。私にかなうはずがない」
「違う、僕はお前の良心だ。僕は狂ってしまった。こんな人格が二つに分かれるなんて異常だ。お前も分かっているだろう」
「は、良心だと! この世界を守るため、父親の罪を償うため、自分さえ犠牲になれば、か!
 そんなお粗末な自己陶酔を何百年も続けていられるか!
 見ろこのざまを! そうとも私は狂った! それこそこのウォッチタワーの構想自体狂っていた証拠だ。そもそも私の父も狂っていた! 私が狂っているのも当然だ!」
「そんなことはない、四百年間は何の問題もなかった。クイーンズブレイドさえ始まらなければ……。それに、お前はまだ義務を放棄してはいないじゃないか」
「当たり前だ! 世界が滅びたら、このような楽しみもないではないか!」
 塔の主が哄笑しながら叫ぶ。
 すると、一瞬にして無限の世界が消える。三人は再び闘技場に立っていた。

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