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カッコウの官能小説劇場

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□ 騎士姫の復讐 □

序章 決闘の行方

「お前が、ベルトラン・ボレックと名乗る女王の代官か」
 透き通った女の声が響いた。
 手斧で薪を割っていた男がゆっくりと振り向く。

「……いかにも、俺がベルトランだ」

 返事が遅れたのは、彼が声の主の美しさに目を見張ったからだろう。

 長く豊かに広がる髪の毛は流れるような銀髪で、光を反射して紫がかった光沢に輝く。
 その髪に包まれた顔は、絶世と言っていいほどの美形だった。
 細く優美な眉の下、エメラルドのような瞳が、けぶる睫毛に飾られている。
 形良く通った鼻筋に、花のつぼみのような唇。柔らかそうな頬がまだ少女時代の面影を残している。
 女らしい顔立ちは、厳しい表情を浮かべてもなお、見る者を魅了する凛々しさになる。

 動きやすさを重視して、最小限に切り詰められた騎士鎧は、軽やかな印象で金属の重さを感じさせない。
 まるで、おとぎ話がから出てきた妖精の騎士のように優美である。

 一方で、鎧からはみ出る滑らかな白い肌からは、若い女の無頓着な色気が匂い立つ。
 女らしい腰のくびれに沿って優美な輪郭を描く鉄胴の上は、下から豊かな乳房を支える胸当てのみ。
 その柔らかそうな胸の谷間と、横からはみ出る丸みは、ある意味白銀の鎧よりもまぶしくうつる。
 胴の下のスカートは、ぎりぎり股間と尻を隠すのみの短さだ。膝の上まである金属製のブーツとの間から、むっちりと肉付きの良い太ももを覗かせ、思わず手を伸ばして触ってみたくなるような、強烈な磁力を発しているのだった。

 彼女は流れるような腰の剣をすらりと抜いて、剣先を男の眼前に突きつけると、豊かな双丘が微かに揺れる。
「私はアンネロッテ。女王の手先となり罪なき民人を虐げる貴様に天誅を加えにきた!」

 それを聞いた男は、合点がいったというように、無精髭に覆われた口を歪めて笑った。
「そういえば、回状が回ってきていたな。女王クローデットに一騎打ちを挑んだ罪人が逃げ出したと。こんなど田舎まで逃げてきて、反乱の続きとはご苦労なことだ」
 男は値踏みをするように、アンネロッテを下から上に舐めるように眺める。常に警戒し続けて生きてきた人間特有の、卑しさが染みついた目つきだった。

「黙れ! 女王の暴虐に人々の怒りは燃え盛っている。お前のような、ならず者を領主にして人々を苦しめているせいだ。私はそれを許さない、悪政を一つ一つ叩きつぶしてやる」
「それで、どうするんだ? 丸腰の俺を問答無用にぶった切るのかな?」
 男は、薪割り用の手斧を見せびらかすようにひらひらと動かす。上半身裸で、粗末なズボンをはいているのみの姿だった。筋肉質の体は、所々に刀傷が刻まれているが、深いしわの刻まれた顔から想像するよりずっと若々しい。

「……お前も一応騎士の息子を名乗っているのだろう。正々堂々と騎士の一騎打ちで打ち負かしてやる。武装を整えてこい!」
 アンネロッテは怒鳴るように言った。
「そりゃあ、ありがたいこった」
 男は後ろを向くと、中庭から屋敷の中へ入っていった。
 アンネロッテは、その姿を見送りながら、彼がズボンの中に小剣らしきものを隠し持っているのに気がつく。

 なんだか機先をはずされたようで、アンネロッテは剣を納めて憮然とした表情になる。

 アンネロッテは女王との一騎打ちに敗れた後、剣の修行と反乱の糸口を求めて旅をしていた。
 その途中で、ボレックという小村の村長から、村を助けて欲しいと頼まれたのだ。
 とある伯爵領の片隅にあったその村は、貴族制度を否定する現女王体制の下で直轄領になり、代官が派遣されてきた。
 元傭兵の代官はその地位を金で買ったことを隠そうともせず、反発する村人を暴力で押さえつけ、重い税を収奪し始めたのだ。
 クローデットが女王の即位して以来、いたる所で聞くような話である。義憤に燃えるアンネロッテは二つ返事で村長の頼みを引き受けた。
 代官を倒した後は、表立ってと言わずとも、反乱勢力に協力してくれることも約束されれば、断る理由は何一つ無かった。

 アンネロッテは代官の男が消えた屋敷を眺める。
 ボレック村を一望できる丘の上に建っているそれは、かつて立派であっただろう石造りの建物だった。今は長年荒れるがままに放置されていたようで、所々崩れて、蔦に覆われている。
 代官の男はかつてこの村の領主だった騎士の息子と名乗ったらしい。
『それはあり得ないことです。その騎士は三十年も前に盗賊団に襲われて一家皆殺しにされたのです。生き残りは誰一人おりませんでした。
 おそらくあの男は、その時の盗賊団の一味だったに違いありません。だからそのような話を持ち出して、屋敷を占拠しておるのです』

 傭兵という私的な武力集団は、喰いあぐねるとすぐに盗賊の類に変わるし、逆もまたしかりである。
 だからアンネロッテは、そういう事もあるかと考えていた。そうであるなら、あの男は二重の意味でこの村の仇である。例えすぐに新しい代官が派遣されることになっても、あの男を倒して欲しいという村長の頼みもわからないではなかった。

 しかし奇妙なのは、あの男が仲間もおらず一人で居るということだ。この程度の小村なら、一人で統治することも不可能ではないだろう。しかし周りは敵ばかりで味方が一人もいないというのはいくらなんでも不便ではないだろうか。

 そこまで考えたところで、男が屋敷から出てくる。
 使い込まれた胴鎧と手甲に兜を着けただけの軽装である。手には片手でも両手でも使えるバスタードソードを持っていた。

「逃げなかったことは褒めてやる」
 アンネロッテは言い放つ。負けるなどということは全く考えていなかった。
 見たところ男は歴戦の兵であることは間違いないだろう。しかし、見たところ、そろそろ戦士としての盛りは過ぎる年齢だ。
 最強の女王クローデットにも挑んだ自分である。並大抵の兵士が相手ならば百人がかりでも相手にできる自信があった。
 もっと格上の女王の部下を何人も打ち倒した。街を支配する軍隊や、前クイーンズブレイドに参加した美闘士でもだ。
 こんな小さな村で、善良な農民を脅かしてるだけの、ごろつきまがいの代官である。万が一にも後れを取るわけがない。

(相手は徒歩だ、アンブロシウスを呼ぶまでもないな)
 アンネロッテは冥界の馬アンブロシウスを自由に呼び出すことができる。アンブロシウスに騎乗したときこそ、アンネロッテは幾多の強敵を打ち破ってきた強さを発揮するのだ。しかし、アンネロッテはその必要はないと判断した。
(同等の条件で力の差を思い知れば、降参して村を出て行くだろう)

「お嬢さんに脅されて、尻尾を巻いてねぐらから出て行くわけにはいかないからな」
 そう言って男は、剣を両手に持って構えた。
 アンネロッテが剣を目の前に立てる騎士の刀礼をしても応じ気配もなく、にやにやと無遠慮にアンネロッテの胸元を見ている。
(所詮、ただの傭兵か)

「参るっ」
 裂帛の気合いとともにアンネロッテが踏み込む。

 剣を打ち合わせる音が甲高く響いた。

(意外と、やるな)
 数合打ち合って、一撃のもとに叩き伏せられると思っていたアンネロッテは驚いた。
 実際アンネロッテの太刀筋は閃光のようで、並の戦士には見ることすら難しかっただろう。
 男の方も攻撃の鋭さにひるんだようで、必死で守っては後ろに下がる。
 アンネロッテは容赦なく打ち込みの連打を降らせ、息の上がる男をついに屋敷の壁際まで追い込んだ。
(これで、終わりだ!)
 アンネロッテは剣を振り上げると、踏み込んだ左足を軸に体を一回転させ、その勢いのまま横なぎに払う。
 左手に大きな盾を持っているため、アンネロッテの打ち込みはどうしても右に偏る。
 そこに突然の左からの斬撃である。この技を避けた者は過去クローデットを含めて数名しかいない。アンネロッテは勝利を確信した。

「!?」
 信じられないことが、起こった。必殺の一撃を放ったはずの剣が、彼の胴体に触れる直前に、アンネロッテの手からはじけ飛んだのだ。
「なっ」
 一瞬驚きに固まるアンネロッテの目に、男の右手に鋸のような刃が付いた小剣が握られているのが見える。
 ソードブレイカー。剣を絡み落とし、時には叩き折るための武器だ。
(読まれていた!?)
 アンネロッテは、目の前の男の技量を大きく見誤っていたことを悟る。一瞬で引き抜いたソードブレイカーで迫る剣を絡み落とす事だけでも、信じがたい絶技である。
 アンネロッテは瞬時に落とされた剣に飛びつくように、拾おうとする。しかし、強烈な足払いがかけられ、アンネロッテは地面にしたたかに叩きつけられる。
 ソードブレイカーが首筋に当てられ、万力のような力で背中に手を絞りあげられる。
 アンネロッテは絶望で目の前が暗くなりながら、自らの敗北を悟るのだった。

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