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カッコウの官能小説劇場

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第一章 第七節

 レイナが目を覚ますと、どこからか水音が聞こえていた。
 ぼんやりした頭で周りを見回すと、隣でノワが裸ですやすやと眠っていた。
 だんだんと頭がはっきりして、先程までしていた行為を思い出すと、レイナの顔は青くなったり赤くなったりした。
(どうしよう……、トモエやノワは大事な友達なのに。エッチな気分に流されてあんな事までしてしまうなんて。
 わたしってだめな娘……。でもあの時は二人も同じだったんだよね。
 ああ、これからどんな顔で付き合えばいいのかしら)
 思い悩むレイナはふと、隣の部屋から水音が聞こえるのに気づいた。そういえばこの部屋に入ってくる時に念のため瓶を扉に挟んでおいて閉じ込められないようにしておいたのだ。
 レイナが隣の部屋を覗くと、トモエが水場の前にしゃがんで、行水のように体に水を掛けて洗っていた。肌の上を玉のように水滴が流れているのが美しい。
「あ、レイナさん……」
 トモエもレイナに気づくと、胸を腕で隠しながら頬を赤くした。レイナも今更ながら自分が全裸なことに気づき、慌てて胸と股間を手で隠す。そしてトモエの肌を見ているとどうしても先程の感触が脳裏に蘇ってしまうのだった。
「ご、ごめんね、さっきはあんなことして」
「いいえ、わたくしも、その……求めてしまいましたから……」
 そう言うとトモエは悩ましげに体をくねらせると、何かを振り払うように水を体にかけた。
「レイナさんもどうぞ」
 そう言うとトモエは体を横にずらして、水場の前にレイナのための場所を空ける。
「うん、ありがとう。体がべとべとだもんね。瓶を扉に挟んでおいて正解だったわねえ。ああ、水が気持ちいい」
 できるだけ何気ない雰囲気を作ろうとするが、自分でもわざとらしく感じてしまう。二人の間に気まずい空気が流れ、部屋に水音だけが響く。

「あ、あの!。先程はわたくし情欲に流されてしまい、その、あのようなことを……。でも決してわたくしは、あの、そのような趣味というわけではなく……今までも決してこんなことは……」
 トモエが突然沈黙を破る。しかし、女同士の三人で睦み合ってしまったということをうまく受け入れられず混乱しているのか、支離滅裂な言葉になってしまう。
「うん。わたしもその、女の人が好きって訳じゃないし。あの時はちょっとおかしくなっちゃったんだよ。潤滑剤とか音楽とか鏡とかで……」
「はい。でもわたくし、レイナさんやノワちゃんが嫌だったとか、後悔しているわけではないんです……」
 そう言うと、トモエは顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
「そうだね。わたしもトモエやノワじゃなかったら、きっとあんな事までしなかったよ」
「ええ、でもこれからはもっと心を強く保たないと。わたくしもまだまだ修行が足りません。」
「そうだね……さっきのことは忘れましょう」
 そう言いながらも、ちらりと隣を横目で見ると、水滴を弾くトモエの艶めかしい肌が見える。
 思わず先程の心も体もとろけるような快感が頭をよぎり、あれを忘れる事なんてできるのだろうかと悩ましい溜息がでてしまう。

「あ~、二人だけずるいなあ。ノワも水浴びする~」
 ノワも目が覚めたらしく、元気な声で部屋に入ってくる。
 そして直接水場の中に入ってしまうと、流れ落ちてくる水に伸びやかな体を当てる。気持ちよさそうに肌に付いた潤滑剤と汗を流した。
「こ~ら、ノワ、お行儀悪いわよ」
「だって、こうした方が手っ取り早いし気持ちいいもん。レイナもトモエもこっちに入ったら?」
 無邪気に笑うノワを見て、レイナは呆れながらも安心する。幼いノワが先程の行為をどう思っているか心配だったのだ。
「ほらほら、こっちに来てじゃばじゃばっと流しちゃおうよ」
「ちょ、ちょっと、ノワ」
 ノワは強引に二人の腕を引っ張って水場に入れる。
 水場に溜まった水はくるぶしの少し上程で、三人が入ると狭くどうしても体が近づいてしまう。
「ほらほら、水かけてあげる」
「ひゃんっ、冷たいですよ、もう」
「えへへへ、さっぱりするでしょ、洗ってあげるよ」
「きゃあっ、け、結構です!くすぐったい……」
 ノワの小さな手がトモエの肌の上を滑る。レイナはついさっきまで触り合っていたことを思い出す。
「ノワ、駄目よ。そんなに触っちゃあ」
 レイナは止めようとノワの腕を軽く掴んで引く。そしてノワがレイナの方を向こうとするが、水場の床に足を滑らせて、ノワがレイナの方に倒れて、素なまま胸に顔を埋めるように抱きついた。
「きゃっ、ごめんね」
 力を入れすぎたと思ったレイナが謝る。
「ううん、大丈夫。滑っただけだから」
 ノワは言うが、そのまま抱きついて体を離そうとしない。
「ちょ、ちょっと、ノワ……!?」
「うふふ、さっきはすっごく気持ちよかった。
 椅子のゲルキャンディのときは、怖くて、自分が変になっちゃった感じで怖かったの。
 でも、レイナとトモエと一緒だと、全然気持ち悪くないし、すっごく安心できて体の中から暖かくなる感じだったよ」
「ノワ……。そうね、わたしも同じように感じたわ。
 でもあれは、本当は好きになった男の人とするべき事なのよ。
 だから、あれはあの一回だけ。わたしたち三人だけの秘密にしましょうね」
 ノワの背中を優しく撫でながらレイナは諭すように言った。
 ノワは顔を上げてレイナの顔を見つめてくる。
 その訴えかけるような大きな瞳を見て、レイナの心にさざ波が立ったが、それを押さえ込み優しく微笑み返した。
「ノワちゃん、先程はわたくしも塔の主の思惑に乗って、情欲に流されてしまいました。
 でも、快楽に溺れるのはとても危険なことなのです。
 きちんと理性で自己を律しなければ清い魂を保てなくなってしまうのですよ。
 ノワちゃんは……、いえわたくし達はまだ若く未熟ですから、自分に厳しくあらねばいけないのです。
 さもないと、塔の主の思うがままになってしまいます、どうかそれを忘れないで……」
 トモエもノワに諭すように言う。
「……うん、そうだね。ごめんね、二人に甘えちゃ駄目だよね」
「謝ることないのよ、ノワ。わたし達もノワと同じことは感じているのだから……」
 そう言うと、レイナはノワを優しく抱きしめたのだった。



(皆さん、どうやら話がまとまったようですね)
 突然、レイナの頭の中に声が響く。
 「誰!?」
 驚いたレイナが思わず声に出して問いかける。トモエやノワもはっとした表情をしている。同じ声が聞こえているらしい。
(僕です、テナルドです。皆さんが塔の主の気を引いている間に、僅かですがこの塔のシステムを取り戻すことができました。今、皆さんに念話で話しかけているのもそのおかげです)
「ちょっ、もしかしてあなた、わたしたちのことが見えてるの?さっきから?」
 レイナが顔を真っ赤にして胸と股間を手で隠す。トモエも短い悲鳴を上げた。先程の激しい痴態を、塔の主に見られているのは仕方がないとしても、他にも見ている男がいたのだ。羞恥心がまた新たに湧き起こってしまう。
(……ええ、まあ。塔のシステムを取り戻すということは塔と一体化するに近いことですから)
「しょ、しょうがないわね、もう」
「ルーはどうしたの?」
 ノワが心配そうな声で聞く。
(彼は無事ですよ。今は塔の中にはいません。外の世界へもしかしたら最後の切り札になるかもしれない使命を果たしてもらっています)
「そうなんだ……」
 ノワは心細そうに呟いた。

「シズカさんの様子は分かりますか?彼女はシノビです。自ら脱出したりとかは……」
(……残念ながら、今も塔の主のおもちゃにされています。ただ肉体を傷つけたりはされませんので)
「くっ」
 それを聞いてトモエは美しい眉根を寄せた。

「そもそも、塔の主ってのはどんな技を使うの?今までの感じからすると、召還術や錬金術らしいけど」
 レイナは、ともかくも対決に備えて情報を得ようと尋ねる。
(……塔の主は、この塔の上部においては神のような力があります。なんでも思い通りのことができます)
「な、何それ、一体どういうことよ」
「そんな、ありえませんわ」
(そもそもこの塔は次元の特異点を安定化させるために作られたのは言いましたよね。特異点は塔の最上部に固定されているのです。
 そして特異点の周辺では因果律がバラバラになり可能性が無限に増殖するのです。……そうですね、つまり夢の中の世界のようになってしまうのです。
 そして、この塔はその混沌とした世界が広がらないように秩序を与える機能を持っています。塔の主は夢を操るようにしてなんでも生み出したり消したりできるのです。それは塔の内部だけの幻影のようなものですが、その中にいる以上は現実と同じような影響を受けてしまいます)
「それじゃあ、わたしたちに勝ち目なんて無いじゃない」
(いえ、神のような力を持つと言っても、神のような意識を持つわけではありません。むしろ、元はただの弱い人間です。何かに集中すれば、別の部分はおろそかになる)
「具体的に、どうすればいいのよ」
(塔の上部に行けば、彼はあなたたちに可能な限り近づこうとするはずです。通信水晶か、人形か、何らかの端末を使って。貴女たちに最大限意識が集中している瞬間にその端末を破壊すれば、塔とのリンクに遅延が生じるはずです。そこを狙って僕が塔のシステムを取り戻す、というのが最も可能性の高いやり方だと考えています)
「何言ってるか良く分からないけど、少なくとも私達の剣が役に立つことはあるってことね」
「でも、そんな神様みたいな力を持っているんだったら、そもそも戦いにならないんじゃ……」
「勝ち目がどんなに薄く見えても、恐れず、自らを律して立ち向かえば必ず勝機はあります。強大な力を持つ者ほど相手を侮るものです。つけいる隙はどこかにあるはずです」
 ノワが不安そうに言うのを、トモエが励ます。
(ええ、彼は美闘士たる貴女たちに執着しています。何らかの形で貴女たちに剣を振るわせようとする可能性は高いです)
「とんだファンってわけね……ここでクイーンズブレイドの中継を見ていたりしてたのかしら?」
 クイーンズブレイドの戦いは前哨戦も含めて魔法の力で各地に中継される。本来公式に認められた受像器でなければ見られないはずだが、この強力な魔法の塔でそれを受信していてもおかしくはない。
(ええ、百二十年の間、彼にとって楽しみはそれだけでしたから)
「百二十年!?、それってクイーンズブレイドが始まった時からじゃない」
 若いレイナ達にとっては、歴史で教えられた遙か昔の出来事である。
「……そんなに長い間この塔に囚われて、それで精神が病んでしまったのでしょうか」
 トモエが悲しげに言う。シズカや自分にした仕打ちは許せないが、それとは別に同情が湧き起こってしまう。幾多の危険な戦いを乗り越えてきても、心根は優しい女性なのだった。
「……テナルドは、もっともっと長い間この塔に一人で居たんだよね。一体どうして……?」
 人一倍孤独の辛さを知るノワが思わず尋ねる。
(次元の特異点を作ったのは、私の師匠で……父でした。私は自ら志願してこの役目を負ったのです。
 さあ、そろそろ塔の主がこちらの方へ関心を向けそうです。次からは僕が話しかけても声に出さずに心の中で答えて下さい)

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